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「クジラはどこへ?」— 静かな海に問いかける影

海に立ちこめる霧の向こう、波は静かに砂浜を撫でていた。かつてこの海には、悠々と泳ぐクジラたちの姿があった。だが今、その姿はどこにも見当たらない。

この物語は、クジラの不在について語る動物たちの会話だ。ハイエナのハイダラは、人間の欺瞞を鋭く指摘する。ゾウのゾウママは、未来を信じ、穏やかに諭す。タヌキのタックは、疑問を抱きながらも、小さな一歩を踏み出そうとする。

それぞれの視点が交錯するこの会話を、静かに耳を澄ませてほしい。


「クジラはどこへ?」— 静かな海に問いかける影
「クジラはどこへ?」— 静かな海に問いかける影

🌫 霧の中の問いかけ — ハイダラの警鐘


ハイデラ
ハイデラ

(霧が立ちこめる海辺。波の音だけが響く。やがて、その霧の中から、ゆっくりと影が浮かび上がる——ハイエナのハイダラだ。)


「クジラはどこへ?」


(低く、静かに問いかける。)


「……フフ、まるで幽霊みたいな問いだな。見えなくなったものは、もういないとでも思うのか?」


(ハイダラは波打ち際に立ち、遠くの水平線を見つめる。)


「人間はな、かつてクジラを狩り尽くした。絶滅しかけたら『守らなきゃ』と気づいた。そして今、またクジラが消えかけてる……。フフ、人間ってやつは、どこまでいっても愚かだ。」


(波が寄せては返す。)


「捕鯨をやめればいい?そんな単純な話じゃない。海そのものが変わったんだ。食べ物が減り、クジラたちは危険な場所へと追いやられる。そして船に轢かれ、網に絡まり、静かに消えていく……。お前たちが知らないだけで、海はもう随分と静かになってるぜ?」


(目を細め、皮肉めいた笑みを浮かべる。)

「それでも、お前たちはまだ『クジラを救わなきゃ』なんて言うのか?」



船に轢かれ、網に絡まり、静かに消えていく鯨
船に轢かれ、網に絡まり、静かに消えていく鯨

🌊 静かに波を見つめる — ゾウママの返答


ゾウママ
ゾウママ

(その言葉に応えるように、霧の中からゆっくりと姿を現す大きな影——ゾウママだった。彼女は波打ち際に立ち、ゆったりと鼻を揺らす。)


「あらあら、ハイダラ……そんなに刺々しい顔をして、また考えすぎたのねぇ。」


(彼女は砂浜に大きな足跡を残しながら、優しく微笑む。)


「確かにねぇ……人間は気まぐれな生き物よ。欲しいときは奪い、失くしたと嘆き、また手を伸ばす。でもね、そうやって試行錯誤するのが、この子たちの生き方なのよ。」


(波の音に耳を澄ませながら、静かに続ける。)


「クジラが減っているのは、ただ捕鯨をやめたから戻るってほど単純な話じゃない。海の流れも、食べ物も、すべてが変わってしまったのねぇ……。」


(ふっと息を吐き、目を細める。)


「でもね、ハイダラ。『もう手遅れだ』なんて言葉ほど、重たいものはないのよ。未来はねぇ、あきらめた瞬間に閉じてしまうの。人間が本気で変わる覚悟を持てるのか、それはまだわからない。でも、だからといって、何もしない理由にはならないわねぇ。」


(ゾウママはハイダラを見つめ、落ち着いた声で問いかける。)


「あなたは、こうしてまだ話しているじゃない?本当に何も期待していないなら、影の中で静かに見ているだけでいいのに。なのに、わざわざ姿を現して、人間に問いかける。それって……どこかで、希望を捨てきれないからじゃない?」


(海風がふわりと吹き抜ける。)

🦝 タックの迷い — どうすれば「聞こえる」のか



タック
タック

(その言葉に、少し離れた場所で波打ち際を見つめていたタックが静かに息をつく。)


「……ゾウママの言うとおりかもしれない。でもさ……」


(タックは少し首をかしげ、海風に吹かれながら言葉を探す。)


「それでも、僕にはまだわからないよ。人間が生き方を変えるって、そんなに簡単なことなの?」


(ゾウママはにこりと微笑み、静かに鼻を振った。)


「そうねぇ……タック、あなたは今、この波の音を聞いているでしょう?」


(タックは耳をすませる。ざざん、ざざん……波が砂浜を撫でるように繰り返している。)


「……うん、聞こえる。」

「それと同じことよ。人間はね、ずっと海の声を聞いてきたの。でもねぇ、時々、忙しさにかまけて、聞こえないふりをするのよ。」


(タックは、足元の砂を軽く掻いた。)


「じゃあ……人間にどうやってそれを思い出させるんだろう?」


(ゾウママは大きく息を吸い込み、遠くの水平線を見つめる。)


「それは、きっと、ひとりひとりの心の中にあるのよ。私たちが伝え続けること。問いかけること。そして、彼らがいつか、自分で気づくのを待つことねぇ。」


(タックはじっと考えたあと、ぽつりとつぶやいた。)


「……それじゃあ、すごく時間がかかるね。」


(ゾウママはくすっと笑う。)


「ええ、そうねぇ。でもね、タック。大きな木も、最初は小さな芽から育つでしょう?時間がかかるからこそ、意味があるのよ。」


(タックは少しだけ笑い、波打ち際に近づき、そっと足をつける。)


「じゃあ……僕も、まずは聞いてみるよ。海が何を言ってるのか、ちゃんと……。」


(空はゆっくりと夕焼けに染まり、海は静かにその色を映していた。)


🌫 霧の中に消える影 — ハイダラの締めくくり

(タックが波にそっと足をつけ、静かに耳を澄ませる。その様子を、霧の向こうからハイダラがじっと見つめていた。)

(しばらくの沈黙の後——ハイダラは低く笑う。)


「フフ……なんだ、お前も結局"聞こう"とするのか。」


(彼はゆっくりと歩み寄り、波打ち際で立ち止まる。)


「……いいだろう。けどな、タック。聞こえたからって、それで何かが変わるとは限らないぜ?」


(海を見つめるハイダラの瞳に、沈みゆく夕日が映る。)


「人間は、ずっと前から海の声を聞いていたさ。でもな、聞こえたからって、"行動する"とは限らないんだ。」


(波が静かに寄せる。遠く、かすかにクジラの歌声が響いたような気がした。)


「……まあ、せいぜい見せてもらおうか。お前たちが、本当に"変われる"のかどうかをな。」


(ハイダラは霧の中へとゆっくりと消えていく。)

(その姿が完全に見えなくなった瞬間、潮風がふわりと吹き抜け、海の表面をかすかに揺らした。)

(静かになった海辺に、ただ波の音だけが響いていた——。)

🌑 闇の向こうに問いを残して

この物語に「答え」はない。だが、ハイダラは問い続ける。

「お前たちは、本当にこの問題に向き合うつもりがあるのか?」

もし、その声が耳に届いたなら——私たちは、どう応えるべきなのだろうか?


🐋 クジラの現状と科学的データ

本記事では、北大西洋のセミクジラ(North Atlantic Right Whale)と日本周辺海域の大型鯨類 の個体数減少に関する最新の研究とデータを紹介する。近年、個体数の減少が深刻化しており、その主な要因として気候変動による環境変化、船舶との衝突、漁網への絡まり が挙げられている。以下に、詳細なデータと論文を基に現状を整理する。

📉 クジラの個体数減少

1️⃣ 北大西洋のセミクジラの個体数推移

Meyer-Gutbrod et al. (2021) によると、北大西洋のセミクジラの個体数は以下のように推移している。

  • 1990年代後半:個体数約500頭

  • 2010年:個体数約450頭

  • 2022年:個体数336頭(IUCN, 2022)

2️⃣ 日本周辺のクジラの個体数推定

日本の水産庁および鯨類研究機関による2023年度の目視調査 によれば、以下のようなデータが報告されている【日本鯨類研究所, 2024】。

北太平洋(2023年)

鯨種

推定個体数

シロナガスクジラ

34頭

ナガスクジラ

450頭

イワシクジラ

243頭

ザトウクジラ

1,768頭

ミナミセミクジラ

5頭

ミンククジラ

83頭

南極海(2023/2024年)

鯨種

推定個体数

シロナガスクジラ

9頭

ナガスクジラ

116頭

イワシクジラ

66頭

ザトウクジラ

77頭

北西太平洋におけるセミクジラの観察数は 1頭のみ と報告され、極めて希少な状況が確認された

🌡 気候変動の影響と餌の減少

3️⃣ 海水温の上昇とカイアシ類の減少

北大西洋のセミクジラは、カイアシ類(Copepods) を主な餌としているが、海水温の上昇 により餌の供給が減少している。

📌 2010年以降、北西大西洋の水温は30年間で最も高い状態を維持(Meyer-Gutbrod et al., 2021)

📌 カイアシ類の個体数は2010年以降、著しく減少(Greene & Pershing, 2021)

📌 餌の減少により、クジラの栄養状態が悪化し、出産率が低下

通常、カイアシ類は春の植物プランクトンの増殖(ブルーム) によって繁殖するが、海水温の上昇により、プランクトンの増殖時期がずれ、カイアシ類の繁殖が不安定になっている(Greene & Pershing, 2021)。

その結果、餌の供給が不安定になり、クジラの栄養状態が悪化し、出産数が激減している。

🚢 船舶との衝突(Ship Strikes)

4️⃣ クジラの死亡原因の約50%が「船舶との衝突」によるもの

  • 2017年と2019年:セントローレンス湾で複数のセミクジラが船に轢かれて死亡(NOAA, 2022)

  • クジラは水面で呼吸するため、大型貨物船に気づかれにくい

  • 大型貨物船(コンテナ船)は時速40ノット(約74km/h) に達し、衝突時にクジラは即死するか、重傷を負う

5️⃣ 日本における船舶衝突の報告

岡部ら(2024) によると、日本国内の報告は以下の通り。

地域

衝突報告数

影響を受けた鯨種

北太平洋(日本沿岸)

6件

ザトウクジラ、イワシクジラ

南西諸島(沖縄周辺)

3件

ザトウクジラ、ミンククジラ

東シナ海

2件

マッコウクジラ、ザトウクジラ

6️⃣ 船舶速度制限の影響

  • 時速10ノット(18.5km/h)以下に減速 すると、衝突のリスクが最大80%減少(Pace et al., 2019)

  • 一部の海域で適用されているが、すべての海域ではない

  • より広範囲な速度制限の適用が求められる

🎣 漁網への絡まり(Entanglement in Fishing Gear)

7️⃣ 86%のクジラが漁網に絡まった経験がある

  • 約86%のセミクジラが一生のうちに少なくとも1回は漁網に絡まった経験がある(Knowlton et al., 2012)

  • 絡まったクジラの40%が命を落とす

  • ロープが皮膚を切り裂き、感染症や衰弱死につながる

8️⃣ 漁網改良の取り組み

  • ロープレス漁法(Ropeless Fishing Gear) の試験導入が進む

  • 漁業用のロープを使用せず、水中ブイを活用する技術

  • カナダとアメリカの一部地域で導入されているが、コストの問題で普及が遅れている


📄 参考文献・データソース

📚 研究論文

📊 公的機関の報告

📊 日本の調査報告

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