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火を選ぶ時代に:クリーンエネルギーと調理の未来をめぐる対話

〜SDGs7「すべての人にエネルギーを」への道のりと、静かな炎の記憶〜

🌿第1章:火を囲む場所


ワニールはかまどで小さな火を起こしていた
ワニールはかまどで小さな火を起こしていた

薪の煙が、夕方の森を灰色に染めていた。ジャンは木陰の石の上に腰を下ろし、目の前のかまどで小さな火を起こしていたワニールをじっと見ていた。

「この煙……昔の家を思い出すよ」とジャンが言った。

「うちの母ちゃんは、いつもこうして石と木だけで煮炊きしてた」とワニールがつぶやく。「今でも南じゃ、これが当たり前だ」

ジャンは新聞をたたみ、静かに問いかける。

「でも、その煙を吸い続けて、何人が命を落としたと思う?」

ワニールの手が止まる。

ジャンは懐から、折りたたんだ報告書を取り出した。「2024年のデータによれば、世界でまだ21億人が、薪や石炭、灯油で料理をしているクリーンな調理手段にアクセスできない人は、2030年になっても18億人残るかもしれないとされている。」

「……俺もその中の一人だったよ」

ワニールは火ばさみを握りしめたまま、煙の向こうを見ていた。

「便利なもんは、便利なところにだけ来るんだ。ここまで来たことは、あったか?」

ジャンは言葉を返さなかった。ただ、火が静かに木を焼く音がした。

🔥第2章:誰の“クリーン”か?

「クリーンな調理?お前、それを“上から”言うなよ。」

ワニールの声は、焚き火の音とともに空気を切り裂くようだった。

「俺たちはな、石炭が好きで使ってるわけじゃない。ガスが来ねぇ。電気が高ぇ。買えるのは薪と灯油だけ。“クリーン”なんて言葉より、“腹がふくれるかどうか”が先だ。」

ジャンはその言葉を遮らず、静かに耳を傾けていた。ワニールの怒りの根は、「無知」ではない。「見放された現実」から来ていた。

「君の国だけじゃない、ワニール。世界中にそういう暮らしがある。でも、それを“文化”として済ませてきた僕らのほうが、鈍感だったのかもしれない。」

ジャンはノートを広げながら、穏やかに続ける。

「今、IRENA――国際再生可能エネルギー機関はこう言ってる。“バイオガスやバイオエタノールといった再生可能なバイオマス由来の調理手段への投資を強化せよ”と。」

ワニールが眉をひそめた。

「バイオマス?なんだそりゃ?」

「簡単に言えば、“植物や動物など、生き物から出たものをエネルギーに変える”資源のことだ。君の使ってる薪も、実はその一種。ただし、“持続可能で、回収できて、空気も汚さない方法で使う”ことが求められてる

「へぇ。結局それも、都会の奴らが考えた“使い方のルール”じゃねぇのか?」

「違うんだ、ワニール。これは“火を選べる自由”の話だよ。燃やすものを選ぶことが、未来を選ぶことになる――そんな選択肢を、君のような現場の人に届けたいと思ってる人たちが、今は確かにいる。」

火のゆらめきが、二人の影を地面に伸ばしていた。

「で、そいつらはこの森に来るのか?」

「もし来たら、君に話をしてほしいんだよ。」

ワニールはしばらく黙っていたが、火ばさみを地面に置いた。

「……その前に、一つ聞きてぇな。火ってのは、“奪う”もんか? “返す”もんか?」

ジャンは答えなかった。ただその問いが、ようやく言葉の奥に届いた気がした。


無理やり導入される技術じゃなく、自分たちで選び、手に入れ、使える方法を広げること
無理やり導入される技術じゃなく、自分たちで選び、手に入れ、使える方法を広げること

📰第3章:火が照らしたもの

ワニールの言葉が、夜の森の空気にまだ残っていた。

ジャンは焚き火の横でノートを開いた。火の温かさは、人の心も記憶も呼び起こす。けれどその火が、“誰かの肺”を蝕む煙になってしまう現実もまた、書きとめなければならない。

「調理するという行為が、命を削ることになる場所がある。」

そんな矛盾を最初に突きつけられたのは、ナイロビ郊外の取材だった。屋根のない台所で、石を三つ積み、薪で煮炊きする家族。母親の目は涙で赤く、子どもは咳をし、壁は煤で黒かった。それでも、彼女は言った。

「火を絶やすわけにはいかないの。」

ジャンはその光景を思い出していた。

ハワイでは違っていた。ナピアグラスが揺れる畑。耕さず、根を残して収穫するラトゥーン方式。空気と土を壊さず、“燃やすために、育てる”という逆転した思想がそこにはあった。

バイオ燃料の可能性は、その数値だけで語られるものではない。「どのように火を起こすか」ではなく、「誰が火を選べるか」が、未来を決めるのだ。

ジャンはノートの隅に、静かに記した。

「火は、命も奪うが、命も支える。その違いは、 “選ぶ自由”があるかどうかだ。」

Jean Gallineaux(ジャン・ガリノー)

記者/観察者/詩人/再生の市民


「火は、命も奪うが、命も支える。その違いは、“選ぶ自由”があるかどうかだ。」
「火は、命も奪うが、命も支える。その違いは、“選ぶ自由”があるかどうかだ。」

🌎第4章:クリーンエネルギーと調理の未来 〜SDGs目標7の現在地〜

■ SDG7(クリーンエネルギー)と調理手段

持続可能な開発目標(SDGs)のうち、**目標7「すべての人々の、安価で信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」の達成において、特に「クリーンな調理手段(Clean Cooking Solutions)」**は未達成の領域として大きな課題とされている。

■ 現状と課題(2024年時点)

  • クリーン調理手段へのアクセス人口(2022年): 約74%(世界人口ベース) → 2010年比で16%改善

  • 現在も汚染燃料に依存している人口: 約21億人(木材、石炭、灯油など)

  • 2030年時点での予測(SDG7進捗報告2024): 現行の取り組みのままでは約18億人がクリーンな調理手段にアクセスできないままとされる。

■ なぜ「クリーンな調理」が重要なのか?

  • 健康影響:屋内空気汚染による呼吸器疾患や早期死亡の主要因

  • 気候変動:調理用燃料の燃焼によるCO₂、メタン、ブラックカーボンなど温室効果ガスの排出

  • ジェンダー・教育:薪採取や調理時間が女性や子どもの学習・就労機会を奪う

  • 社会的格差:アクセス格差が経済的・地理的・政策的背景によって固定化される

■ IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の提言(2024)

  • 再生可能エネルギー基盤の調理技術(バイオガス、バイオエタノール、電化)の導入拡大

  • LPG(液化石油ガス)への過度な依存からの脱却

  • 地域特性に応じた技術と政策の統合的支援

  • 投資の大幅な増額(特に農村部や低所得層向け)

■ 各国の取り組み

◆ 日本(NEDO・民間企業連携)

  • 微細藻類、廃食油、木質バイオマスを活用したバイオ燃料の技術開発

  • バイオジェット燃料と同時に家庭用調理エネルギー転用の研究が進行中

  • 日仏共同研究により廃棄物由来エネルギーの持続的利活用モデルの実証

◆ ブラジル

  • 2024年:バイオ燃料生産量が過去最高を記録

  • トウモロコシやサトウキビに加え、セルロース系や廃材の利用が拡大

  • 一部農村部ではバイオ燃料の調理用転用プログラムも試行中

◆ フランス

  • エネルギー供給のうち約9.3%がバイオ燃料(2020年)

  • 廃食油や木質ペレットを利用した家庭用バイオ加熱機器の普及

  • 地方自治体による調理燃料支援制度の導入が進む

■ 今後の課題と必要な行動

  1. 資金調達と国際的な政策連携の加速

  2. 技術開発と地域実装の一体的支援

  3. 教育・普及活動を通じた利用者側の選択肢創出

  4. 性別・地域・所得によるアクセス格差の是正

  5. 再生可能資源を活用した多様な調理技術の確立

📚参考文献・資料一覧

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